東京高等裁判所 平成2年(行ケ)134号 判決 1992年12月01日
大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇番三二号
原告
株式会社広瀬製作所
右代表者代表取締役
廣瀬徳三
右訴訟代理人弁理士
西教圭一郎
同
摩嶋郎
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被告
特許庁長官 麻生渡
右指定代理人
吉村真治
同
中村友之
同
廣田米男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「特許庁が昭和六二年審判第一一九〇〇号事件について平成二年三月一五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文と同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五七年一〇月七日、名称を「本縫ミシンの下糸残量検出装置」とする発明について特許出願(昭和五七年特許願第一七七〇七九号)をし、昭和六〇年一二月二七日、実用新案登録出願(昭和六〇年実用新案登録願第二〇四一一二号)に変更したが(以下、この出願に係る考案を「本件考案」という。)、昭和六二年四月一六日、拒絶査定を受けたので、同年七月二日、審判を請求し、同年審判第一一九〇〇号事件として審理された結果、平成二年三月一五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年五月三一日、原告に送達された
二 本願考案の要旨
機体1の上部に、機体1に立設される脚部16と、この脚部16に一端部17aが連なりかつ水平に延びる水平部17とを有するハウジング18を設け、
ハウジング18の水平部17内には、水平な回転軸線を有する上軸2を設け、
上軸2には、ハウジング18の前記一端部17aから外側方に露出して配置されたはずみ車であるプーリ3が固定され、水平部17の他端部17bに設けられている針棒4が、上軸2に連動して上下運動を行い、
機体1内には、上軸2に連動する水平な回転軸線を有する下軸5が設けられ、下軸5には下糸が巻付けられたボビンを装着したかま6が取付けられ、モータ15によつて駆動される本縫ミシンの下糸残量検出装置において、
かま6のボビンには下糸の材質に対応した量が縫製に先立つて巻回され、
プーリ3のハウジング18側における表面に固着されるアルミニウム箔である単一個の光学的反射片8と、
ハウジング18のプーリ3に臨む表面に固着され、プーリ3に光を照射し、反射片8による反射光を検出する光学的検出素子10と、
光学的検出素子10からの出力を計数するカウンタ11と、
脚部16の手前の表面に設けられ、下糸の材質と下糸の太さとを入力するキー入力手段12と、
キー入力手段12の近傍で、かつそのキー入力手段よりも上方で、水平部17の前記一端部17aの手前の表面に設けられ、下糸残量を表示する表示器14と、
カウンタ11とキー入力手段12との出力を受信し、カウンタ11による計数値が、下糸の材質と下糸の太さとに依存して、モータ15を停止すべき予め定められた零でない下糸残量になつたとき、モータ15を停止し、かつ、カウンタ11による計数値に基づいて、表示器14によつて下糸残量を、縫製作業当初のボビンに巻かれた下糸の材質に対応した量を一〇〇とし、下糸が消費されてしまつたときを零として、一〇〇分率に換算した値で表示させる処理回路13とを含むことを特徴とする本縫ミシンの下糸残量検出装置(別紙図面一参照)
三 審決の理由の要点
1 本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。
2 昭和五二年特許出願公開第四三五四号公報(以下「第一引用例」という。)には、本縫ミシンの下糸残量検出装置において、ボビンの鍔部に取付けられた磁石(8、8')とそれに対向して機枠に取付けられた磁気センサ(1)とからなるボビン回転数を検出するための検出手段と、前記検出手段からの信号を波形整形した電気パルスを計数するカウンタ(303、403)と、ボビンの巻き取り回転数を検出し、前記カウンタに入力するための回転検出部(306)、レジスタ部(308)、スイツチ(309)からなる下糸巻き取り数設定手段と、所定の糸の太さで希望の残量を設定するための切換部(407)、下糸指定残量設定部(406)とからなる下糸指定残量設定手段と、前記カウンタ(303、403)に入力された巻き取り回転数よりボビン回転数を減算し、計数値が下糸指定残量に達したときに信号を出力する下糸指定残量摘出手段(304、404)と、下糸残量を段階的に表わす複数個の表示ランプを有し、前記指定残量に達した時の信号により警報を発する表示装置(6)とを備え、ボビンの回転数を計測することによつて下糸残量を検知し、所定の残量に達したときに警報を発して作業者に通報するようにした下糸残量検出装置が開示されているものと認める。
昭和四八年特許出願公開第七三二五八号公報(以下「第二引用例」という。)には、ミシンの下糸消費量表示装置において、水平送り軸の揺動運動の一方向のみの運動により間欠回転機構を作動せしめ、該作動により数字を変更せしめて下糸消費量を表示するようにした計数表示装置が記載されている。
昭和五〇年特許出願公開第一一七五六二号公報(以下「第三引用例」という。)には、ミシンの縫糸消費量計測報知装置において、糸繰出しに伴つて回る糸車と、糸車の回転数を指示する指標と目盛板を有する計数盤と、指標を所望の数値にプリセツトするための機構と、指標が〇目盛を指した時に開閉するスイツチ機構と、電気回路とを備え、下糸の捲取り時にボビンの捲取り量を計測し、糸の太さに応じて指標をプリセツトすることによつて所望の下糸残量を設定し、ミシン作業時に所定の下糸残量に達したときにミシンの回転を制御すなわち停止せしめたり警報を発したりするようにした下糸残量報知装置が記載されている。
3 本願考案と第一引用例記載の下糸残量検出装置とを比較すると、本願考案の本縫ミシンの機体に関する構成要件は、従来周知の本縫ミシンの構成を規定するにすぎないものであるから、両者は、機体の上部に、機体に立設される脚部と、この脚部に一端部が連なりかつ水平に延びる水平部とを有するハウジングを設け、ハウジングの水平部内には、水平な回転軸線を有する上軸を設け、上軸には、ハウジングの前記一端部aから外側方に露出して配置されたはずみ車であるプーリが固定され、水平部の他端部bに設けられている針棒が、上軸に連動して上下運動を行い、機体内には、上軸に連動する水平な回転軸線を有する下軸が設けられ、下軸には下糸が巻付けられたボビンを装着したかまが取付けられ、モータによつて駆動される本縫ミシンの下糸残量検出装置において、ミシンの下糸残量に関連する回転部品の回転数を検知する検出手段と、該検出手段からの出力を計数するカウンタと、所定の下糸残量を毅定する入力手段と、下糸残量を表示する表示装置と、前記カウンタと入力手段の出力を受け、カウンタによる計数値が零でない下糸残量になつたときに信号を出力するとともにカウンタの計数値に基づいて表示装置に下糸残量を表示させるようにした処理回路を備えた下糸残量検出装置である点で一致している。
そして、<1>ボビンの下糸残量を検知するための検出対象が、本願考案では主軸の回転数であるのに対して、第二引用例記載の発明ではボビンの回転数である点、<2>検出対象の相違に関連して、検出手段が、本願考案では、プーリのハウジング側表面に固着されたアルミニウム箔である単一個の光学的反射片8と、ハウジングのプーリに臨む表面に固着され、プーリに光を照射し、反射片による反射光を検出する光学的検出素子とから構成されているのに対して、第一引用例記載の発明では、ボビンの鍔部に取付けられた磁石とそれに対向して機枠に取付けられた磁気センサとから構成されている点、<3>下糸残量を設定する入力手段が、本願考案では、脚部の手前の表面に設けられ、下糸の材質と下糸の太さとを入力するキー入力手段であるのに対して、第一引用例記載の発明では、具体的構成が定かでない点、<4>表示装置が、本願考案では、キー入力手段の近傍上方で、機枠水平部の一端部の手前表面に設けられ、縫製作業当初のボビンに巻かれた下糸の材質に対応した量を一〇〇とし、下糸が消費されてしまつたときを零として、一〇〇分率に換算した値で下糸残量を表示する表示器であるのに対して、第一引用例記載の発明では、下糸残量を段階的に表す複数個の表示ランプを有する表示器であつて、設定場所は定かでない点、及び<5>処理回路が、本願考案では、所定の下糸残量になつたときにモータを停止させる信号を出力してモータを停止するとともに、表示器に下糸残量を一〇〇分率で表示させるように信号を出力しているのに対して、第一引用例記載の発明では、所定の下糸残量に達したときに警報信号を出力するとともに、表示装置に下糸残量を段階的に表示させるよう信号を出力している点で相違している。
そこで、前記相違点<1>について検討すると、第二引用例には、主軸の回転に同期する水平送り軸の揺動運動を計数することによつて下糸消費量を検知することが記載されており、下糸残量の検知をボビンの回転数の検出に代え、主軸の回転数の検出を採用しても、目的及び効果に格別の差異は生じないから、相違点<1>は、第二引用例記載の技術事項から当業者がきわめて容易に想到し得るものである。
次に相違点<2>について検討すると、ミシン主軸の回転数、回転位置の検出に、ミシン機枠と主軸に付する回転体との間に光電検出装置を配設すること、及びボビンの糸量検出に光電検出装置を採用することはきわめて普通に実施されていることであり(例えば、昭和五〇年特許出願公開第五九一五〇号公報(以下「第一周知例」という。)、昭和五二年特許出願公開第二四七五二号公報(以下「第二周知例」という。)参照)、主軸の回転数検出に光電検出装置を採用した点に何ら考案力を認めることはできない。
また、光電検出装置として、光電検出素子とアルミ箔のような反射板を採用することも従来より極めて普通に知られていることであつて、ミシン機枠に光電検出素子を装着し、プーリに反射アルミ箔を固着することは、当業者にとつてはきわめて容易に実施し得る設計上の事項であり、またそのようにしたことによつて格別の作用効果がもたらされたということもできないから、結局のところ相違点<2>は当業春が設計上の必要に応じてきわめて容易に実施し得るものである。
次に相違点<3>について検討すると、電子ミシンの模様選択装置において、機枠の前面に各種の選択キー入力手段を配設することは、従来より周知であるから、キー入力手段を機枠脚部に設けた点に考案を認めることはできない。
次に、下糸の材質を入力するようにした点について検討すると、材質に応じてボビンにどれだけの下糸を巻付けるかということは、当業者が適宜に決定し得るものであつて、巻付け量を変えるならばその巻付け量を一つの係数として採用しなければならないということは、当業者にとつては普通に想到し得るところであり、また、材質に応じて巻付け量を決定しても、作業者が実際にボビンに巻付ける下糸量は必ずしも決定された量になるとは限られない(それを保障する手段は本願明細書に記載されていない。)から、実際の巻付け量を計数してカウンタに入力する第一引用例記載の発明に比較して格別の効果は生じない。
さらに指定下糸残量だけを考えるならば、ボビンに残つている下糸の長さは、糸の太さとボビンに巻付いている糸の巻付け数に依存して決定されるもので、当初に巻付けられた巻付け量は関係しないから、指定下糸残量を設定するために下糸の材質に対応する巻付け量を入力することに格別の技術的意義を認めることはできない。
したがつて、相違点<3>は、当業者が必要に応じてきわめて容易に推考し得るものというほかない。
次に、相違点<4>について検討すると、電気的ジグザグミシンの模様表示装置において、表示部をミシンアームの前面で模様選択装置に近接して配設することは普通に実施されているから、表示器を本願考案のように配設することは当業者にとつてはきわめて容易に実施し得るものである。
また、下糸残量を一〇〇分率で表示しても、段階的に表示する第一引用例記載の発明と比較して格別の作用効果が生じたということができないから、相違点<4>は当業者がきわめて容易に推考し得るものである。
次に、相違点<5>について検討すると、下糸残量が所定の指定残量になつたときにミシンの回転を制御することは第三引用例に記載されており、処理回路によりミシンを停止させるようにすることは第三引用例記載の技術事項から当業者がきわめて容易に実施し得るものである。
また、表示器の表示を一〇〇分率に表示させるため、処理回路内に演算手段を設けることは、コンピユータに関する技術常識から当業者がきわめて容易に実施し得ることであるから、相違点<5>は当業者かきわめて容易に推考し得るものである。
以上のように各相違点に取上げた本願考案の構成要件は、いずれも周知の技術手段、各引用例記載の技術事項から当業者がきわめて容易に推考し得るものであつて、それらを総合しても当業者が予測できないような格別の作用効果が生じたものということはできない。
4 以上のとおりであるから、本願考案は、各引用例に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたもので、実用新案法三条二項の規定により実用新案登録を受けることができない。
四 審決の取消事由
審決の本願考案の要旨、第一引用例ないし第三引用例記載の技術内容、本願考案と第一引用例記載の発明との一数点及び相違点の認定は認めるが、相違点に対する判断は争う。
審決は本願考案の技術的課題(目的)作用効果についての判断を誤り、また、周知例記載の技術内容の認定を誤つて相違点に対する判断を誤り、もつて本願考案の進歩性を誤つて否定したもので、違法であるから取消しを免れない。
1 本願考案の技術的課題(目的)及び作用効果
本願考案の技術的課題(目的)は、既存の下糸残量検出装置では、既存の本縫ミシンについて家庭内の不慣れな人々が改造して実施することが困難であるとの知見に基づき、家庭内の不慣れな人々が容易に実施することができるような本縫ミシンの下糸残量検出装置を提供することにある。
本願考案は、右の技術的課題(目的)を達成するため、既存の本縫ミシンを分解して組み込む等の必要をなくし、マイコンを利用し、本縫ミシンの表面に設けられ、短い配線距離で容易に取付けができるように光学的反射片、光学的検出素子、キー入力手段及び表示器の四つの構成要素の位置関係について工夫をし、本願考案の要旨とする構成を採用したものであり、これにより、家庭内の不慣れな人々でも、既存の本縫ミシンにつきこれを分解することなく容易に実施できるという作用効果を奏するのである。
2 取消事由<1>-相違点<1>に対する判断の誤り
審決は、相違点<1>について、第二引用例には主軸の回転に同期する水平送り軸の揺動運動を計数することによつて下糸消費量を検知することが記載されており、下糸残量の検知をボビン回転数の検出に代え、主軸の回転数の検出を採用しても、目的及び効果に格別の差異は生じないとして、相違点<1>は、第二引用例記載の技術事項から当業者がきわめて容易に想到し得るものと判断している。
しかし、第二引用例は、送り歯に水平運動を与える水平送り軸の揺動運動の一方向のみの運動により間欠回転機構を作動させるという複雑な構成で主軸回転数を検知する構成に係るものである。
一方、本願考案は、家庭内の不慣れな人々が既存の本縫ミシンを分解することなく容易に実施することができるように、ミシンの構成部品として必須のはずみ車であるプーリに取付け容易なアルミニウム箔である単一個の光学的反射片を固着してプーリの回転数を検出するものである。
また、第二引用例は、水平送り軸1の揺動運動回数を機械的な運動手段でカウンタ19の数字21に表示するものを開示するのみであり、本願考案のマイコン利用のものと主軸回転数の表示手段を全く異にするものである。
したがつて、第二引用例は本願考案と技術的課題(目的)と効果を異にするものであり、当業者は、第二引用例に基づいて、第一引用例記載の発明におけるボビンの下糸残量を検知するための検出対象を主軸の回転数に代えることを想到することはきわめて容易なことではない。
3 取消事由<2>-相違点<2>に対する判断の誤り
審決は、相違点<2>に対する判断において、ミシン主軸の回軸数、回転位置の検出に、ミシン機枠と主軸に付随する回転体との間に光電検出装置を配設すること、及びボビンの糸最検出に光電検出装置を採用することはきわめて普通に実施されていることであるとして第一周知例及び第二周知例を引用し、もつて、本願考案が主軸の回転数検出に光電検出装置を採用した点に何ら考案力を認めることはできないと判断している。
しかし、右各周知例記載の発明は、「ミシン主軸回転位置検出装置」、「位置検出装置」という発明の名称からも明らかなとおり、ミシン針の上位置又は下位置等の特定位置を検出するためのものであつて、ミシン主軸の回転数を検出する構成は全く記載されていない。したがつて、各周知例にミシン回転数の検出に光電検出装置を配設する構成が開示されているとの審決の認定は誤りであり、それに基づく相違点<2>に対する判断は誤りである。
また、本願考案においては、家庭内の不慣れな人々が既存のミシンを分解することなく容易に実施することができるよう、アルミニウム箔は、プーリ3のハウジング18側の表面に配設される。そして、そうすることにより、作業者が縫製の終了時に主軸を迅速に停止させるためプーリに手を接触させに時、手がアルミニウム箔に接触し、剥離してしまうことを防ぐこともできる。
このような本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、第一引用例や各周知例には全く開示されておらず、本願考案の工夫に係るものである。
したがつて、審決が主軸の回転数検出に光電検出装置を採用した点に何ら考案力を認めることはできないと判断したことは誤りである。
4 取消事由<3>-相違点<3>に対する判断の誤り
審決は、電子ミシンの模様選択装置において、機枠の前面に各種の選択キー入力手段を配設することは従来より周知であるとして、本願考案がキー入力手段を機枠脚部に設けた点に考案を認めることはできないと判断する。
しかし、本願考案は、前記の技術的課題(目的)を達成するため、キー入力手段、表示器のみならず光学的反射片と光学的検出素子を含めた四つの構成要素の位置関係の組合せ及びその作用効果が検討されるべきものである。
したがつて、単にキー入力手段一つを捉えて、直ちに、それを機枠脚部に設けた点について考案を認めることはできないと判断したことは誤りである。
また、審決は、本願考案が下糸の材質を入力するようにした点に格別の技術的意義を認めることができないと判断する。
しかし、化学繊維と綿糸では、巻付けたときの糸の伸縮性に差異があり、下糸が綿糸の場合は、ボビンに一杯に巻付けても、弾力性が零に近いので、ボビンからばらけてほどけてしまうという問題は生じないが、テトロン糸は弾力性が大きく、ボビンからばらけてほどけてしまう傾向が大きい。したがつて、一般的にはテトロン糸はボビンに八〇%くらいしか巻回することができない。
本願考案は、テトロン糸であることをキー入力手段によつて入力し、作業者は、そのテトロン糸をボビンに約八〇%くらい巻回することによつて、下糸残量を概略知ることができるものであり、糸の巻付け量を入力する必要はなく、操作性が格段に向上するものである。
したがつて、本願考案が下糸の材質を入力するようにした点に格別の技術的意義を認めることができないと判断したことは誤りである。
5 取消事由<4>-相違点<4>に対する判断の誤り
審決は、電気的ジグザグミシンの模様表示装置において、表示部をミシンアームの前面で模様選択装置に近接して配設することは普通に実施されていることであるとし、表示器を本願考案のような位置に配設することはきわめて容易に実施し得ることであると判断している。
しかし、キー入力手段と同様に、それのみを単独に取り上げて判断したものであり、キー入力手段、表示器のみならず光学的反射片と光学的検出素子を含めた四つの構成要素の位置関係の組合せ及びその作用効果に基づいて判断されたものではなく、誤りである。
また、審決は、下糸残量を一〇〇分率で表示しても、段階的に表示する第一引用例記載の発明と比較して格別の作用効果が生じたということができないと判断する。
しかし、下糸残量を一〇〇分率で表示することは、本願明細書に「すでに縫製を行つた量と、その後の縫製可能な量とを、感覚的に知ることができる。そのため縫製作業が能率的に行われ、縫製作業の途中で下糸が消費され尽くしてしまうという問題を可及的確実に避けることができる」(昭和六二年七月一三日付手続補正書六頁五行ないし一〇行)と記載されているような作用効果を奏するものである。そして、第一引用例記載の発明では、作業者は繁忙な作業中は直観的には残量を把握しえないことは極めて明らかであり、本願考案とは作用効果上顕著な差異があるものである。
したがつて、審決の前記判断は誤りである。
6 取消事由<5>-相違点<5>に対する判断の誤り
審決は、相違点<5>に対する判断において、下糸残量が所定の指定残量になつたときにミシンの回転を制御することが第三引用例に記載されているとして、本願考案が処理回路によりミシンを停止させるようにしたことは第三引用例記載の技術事項から当業者がきわめて容易に実施し得ることであると判断する。
しかし、第三引用例記載の発明においては、「作業の進行に伴つて指標は次第に(略)使用量と逆比例的に減数指示し、逐に目盛の零点へ到達する・このとき計数円盤の軸6に設けたカム18(略)の作用によりレバー19が作動してスイツチ部20を制御し、ランプを点灯したりしてミシン作業者に下糸の終わりが近いことを報告するのである。」(二頁左下欄五行ないし一二行)と記載されているように、第三引用例記載の発明における回転制御は単に下糸残量終了を作業者に予告する目的のためであり、積極的にミシンを停止させて糸切れを確定に防止する意図ないし認識は全く窺うことができないものである。
したがつて、第三引用例から本願考案のミシン停止の処理回路をきわめて容易に実施することは到底できないものであるから、審決の右判断は誤りであり、これに基づく相違点<5>に対する判断は誤りである。
第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三は認める。
二 同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
1 本願考案の技術的課題(目的)及び作用効果について
原告は、本願考案の技術的課題(目的)は家庭内の不慣れな人々が広く既存の本縫ミシンに容易に実施することができる下糸残量検出装置を提供することにある旨主張する。
しかし、その点に関する本願明細書の記載は不明確である上、広く既存の本縫ミシンに本願考案の装置を実施することは、当業者でも容易ではなく、不可能に近いものである。
そして、既存の本縫ミシンとして特定の構造と形状の公知のものを想定しても、家庭内の不慣れな人々にできることは不糸残量検出装置を簡単に操作するということであつて、この装置を本縫ミシンに組み込むことはできないことである。
以上のことを勘案すると、本願明細書記載の不願考案の技術的課題(目的)は、家庭内の不慣れな人々か簡単に使用できる(「容易に実施することができる」とはこの意味である。)操作性のよい下糸残量検出装置を組み込んだ本縫ミシンを提供することにあると解される。そして、家庭用ミシンにあつては、不慣れな人々でも簡単に換作できるようにすることは、すべての家庭用ミシンに共通する課題であつて、本願考案の技術的課題(目的)は格別のものではない。
また、本願考案がマイコン利用の下糸残量検出装置を本縫ミシンに組み込むことを技術的課題とするといつても、マイコンを利用するという点は本願明細書に記載されておらず、また、第一引用例記載の検出装置は、電子制御回路を有しており、マイコン利用の下糸残量検出装置を本縫ミシンに組み込んだものであるから、本願考案の技術的課題と共通するものであり、何ら格別の技術的意義のあるものではない。
そして、本願考案の技術的課題(目的)をどのように規定してみても、従来技術の欠陥を克服したものでないことは明白であり、本願考案の総合的効果に関する原告の主張は何ら技術的根拠のないものである。
仮に、本願考案の技術的課題についての原告の主張を、本願考案が、検出手段、キー入力手段、表示器、処理回路(カウンタ、演算手段、表示制御回路、ミシン制御回路を含む。)からなる下糸残量検出装置の電子制御手段をミシン機枠の表面に容易に装着するようにした点に大きな技術的意義があるという主張であるとしても、理由がない。
本願明細書には、検出手段、キー入力手段、表示器について、ミシン機枠の表面に配置し固着するということは記載されているが、それがどのような形状、構造を有し、どのような取付手段によつて固着されるかは、何ら記載されていない。
また、処理回路については、回路を組み込んだ制御パネルの形状、構造及び取付手段は勿論、配置位置さえ記載されていない。
しかし、キー入力手段、表示器を例えばパネル状のものとし、何らかの取着手段をもつて機枠表面に簡単に取着するようにすること、例えば、処理回路を組み込んだ制御パネルを、キー入力手段又は表示器と重ね併せた薄型のパネルとするか、あるいは別体のパネルとして何らかの取着手段で機枠表面に取着すること、検出手段を小型のものにして簡単に取着するようにすることは当業者にとつて普通に実施できることであり、したがつてまた、明細書にも当業者に自明のこととして記載されていないのである。
そして、入力手段、表示器、処理回路を組み込んだパネル板をミシン機枠の表面に装着することは従来より普通に実施されていることであるから(乙第六号証)、下糸残量検出装置の電子制御手段をミシン機枠の表面に容易に装着するようにしたという点に格別の技術的意義はない。
また、原告は、本願考案が四つの構成要素の配設位置を規定したことから、ミシンを分解することなく短い配線距離で取り付けることができ、格別の効果がもたらされる旨主張するが、理由がない。
構成要素をねじ止めなどの着脱可能な固着手段をもつて機枠表面に取着すれば、機枠を分解することなく固着できることは自明のことであり、従来のミシンにおいても、機枠の表面に配設する部品は、機枠内部に必要な各種の機構、装置を組み込んだ上で、機枠表面にねじ等で固着されており、着脱にあたつては、機枠、ハウジング内を分解することはしない。
したがつて、ミシンを分解しないで固着できるということは格別の技術的意義はない。
短く配線できるということも、処理回路がどこに配設されるか、全体の配線がどうなつているのか本願明細書には何も記載されておらず、構成要素を近接して配置したから、その間の配線は短くて良いという程度のことで、格別の効果ということはできない。
2 取消事由<1>-相違点<1>に対する判断の誤りについて
ます、原告は、第二引用例の送り歯に水平運動を与える水平送り軸の揺動運動の一方向のみの運動により間欠回転機構を作動させるという複雑な構成で主軸回転数を検知する構成に係り、また、主軸回転数の表示手段が本願考案のようなマイコン利用のものとは異なるとして、マイコン利用のもと、家庭内の不慣れな人々が既存の本縫ミシンに容易に実施することができるようにするという本願考案の技術的課題(目的)を予測できるものではないとする。
しかし、原告の主張する本願考案の右の技術的課題(目的)が根拠のないものであるか又は格別のものでないことは前述のとおりであり、原告の主張はその前提においてすでに理由がなく、失当である。
3 取消事由<2>-相違点<2>に対する判断の誤りについて
ミシンの検出装置において、主軸回転数検出装置も主軸回転位置(針位置)検出装置も、そこに使用される検出装置自体は変わらない。
位置検出装置は、所定の針位置でパルス信号を発生させ、該パルス信号に応答して制御回路を介して駆動制御するようにしたものであるが、回転数検出装置は、右パルス信号をカウンタにより計数し、所定の計数値に達したときに制御回路を介して駆動制御するようにしたものである(乙第一号証、第二号証)。
審決が挙けた周知例は、位置検出装置において光電検出装置を配設したものとして例示したものであるが、前記の技術常識からすると、当業者にとつては回転数検出装置におけるものといつても誤りではない。
また、回転数検出装置に光電検出装置を採用すること自体も周知のことである(乙第三号証)。
また、ミシンの機枠に関連して検出素子を取り付け、プーリに被検出体を取着することは、従来より普通に実施されていることであるから(乙第一〇号証ないし第一二号証)、ミシンの機枠、ハウジングの表面に光電素子を固着し、プーリ表面にアルミニウム箔の反射片を固着することは、当業者にとつて普通に実施できることである。
以上のように、プーリを利用して光学的反射片を取り付け、その回転数を検出することは、周知の技術事項から当業者が普通に想到し得ることであり、そのことによつて格別の効果がもたらされるものでもない。
4 取消事由<3>-相違点<3>に対する判断の誤りについて
原告は、本願考案は、その技術的課題(目的)を達成するために、光学的反射片、光学的検出素子、キー入力手段及び表示器の四つの構成要素を特定の位置関係に配設し、それによつて格別の作用効果を奏するものであるとして、審決かキー入力手段のみを取上けて、その構成の容易想到性を判断したことの誤りをいう。
しかし、右四つの構成要素を本願考案のように配設することは当業者が普通に実施し得ることであり、また、そうすることにより格別の作用効果を奏するものでないことは前1で主張したとおりであつて、原告の主張は理由がない。
また、本願考案で、「下糸の材質と下糸の太さを入力する」ということは、下糸残量を設定入力するに当たつて、キー入力手段で「表1に示されるように予め準備されている条件に対応した値」を入力する(本願明細書一〇頁八行ないし一一頁二行)ということで、下糸の材質をキー入力手段で入力するわけではない。
そして、糸の材質に応じて糸の伸縮性が異なり、一定の張力をかけてボビンに巻付けたとき、伸縮性に応じて糸の太さ、巻付け長さが変わることは当業者にとつて自明の事項(したがつて、本願考案においても明細書に記載していない。)であつて、糸の材質に応じて設定値を補正、調整することは当業者が適宜に実施し得ることである。
5 取消事由<4>-相違点<4>に対する判断の誤りについて
原告は、表示器の配設位置についての審決の判断につき、キー入力手段の配設位置についての判断に対するのと同様の主張をして、審決の判断の誤りをいうが、それが理由のないことは、キー入力手段に対する判断と同様である。
また、第一引用例の第1図に記載された実施例の表示手段は五個の表示ランプを設け、五段階で残量を表示するようにしている。これは、残量を直観的感覚的に把握することができるという点では、一〇〇までの数字を読み取る本願考案のものよりも優れている。
また、当初の巻付利用を一〇〇としても、巻付量は糸の材質と太さによつて異なり、定められた下糸残量と一〇〇分率との間に直接の関係はないのであるから、下糸残量を確保するという点では一〇〇分率表示は技術的意義にないものである。
6 取消事由<5>-相違点<5>に対する判断の誤りについて
第三引用例の特許請求の範囲は、「指標が零点に達した時ミシン回転を制御せしめたり、書報を発せしめたりする事が出来るようにしたミシンに於ける縫糸消費量計測報知機」(一頁左下欄末行ないし右下欄二行)と記載されているところ、ミシンの下糸残量検知装置において、所定の残量になつたときにミシンを停止させることは従来より周知であるから(乙第七号証、第八号証)、ミシンの回転を制御するというなかには、ミシンを停止させることが含まれていることは、当業者にとつて明白である。
したがつて、第三引用例にはミシンを停止させることは開示されていないとして、相違点<5>の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
第四 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
第一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)は、当事者関に争いがない。
また、第一引用例ないし第三引用例記載の技術内容、本願考案と第一引用例記載の発明との一致点及び相違点の認定は、当事者間に争いがない。
第二 そこで、原告主張の審決の取消事由について判断する。
一 成立に争いのない甲第二号証(実用新案登録願)及び甲第四号証(手続補正書)によれば、本願明細書には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果として次のような記載があることを認めることができる。
1 技術的課題(目的)
本願考案は、ミシンの下糸残量検出装置に関するもので、簡単な構成により下糸の残量を検知し得るようにしたものである(明細書二頁下から三行ないし末行)。
本縫ミシンにおいては、下糸を巻いたボビンはボビンケース内に装入され、更に該ボビンケースはベツド下部に配設されたかまに装着されるため、ボビン内の下糸の状態は外部から全く観察できない(同三頁初行ないし五行)。
従来より下糸の消費量を観察するために種々の方法が提案されている。典型的な先行技術は、昭和五二年実用新案公開第一〇七七五五号公報及び昭和五二年特許出願公開第四三五四号公報であつて、下糸ボビンに永久磁石を固定し、磁気センサによつてその永久磁石を検出し、これによつて下糸残量を検出するように構成される。
他の先行技術は昭和五〇年特許出願公開第一一七五六二号公報であつて、下糸の残量を検出するために、下糸と上糸とは同一量が消費されるという点に着眼し、したがつて上糸に接触して、その上糸の繰出し長さを、比較的複雑な構成によつて計測するようにしている。
さらに他の先行技術は昭和四八年特許出願公開第七三二五八号公報に示されており、送り歯に水平運動を与える水平送り軸の揺動運動の一方向のみの運動により間欠回転機構を作動させ、これによつて本縫ミシンの下糸消費量を表示するように構成している。
しかし、これらの先行技術はいずれも、家庭内の不慣れな人々にとつては、既存の本縫ミシンに適合して実施することが困難である。
本願考案の主たる目的は、既存の本縫ミシンに関連して、家庭内の不慣れな人々が容易に実施することができるようにした本縫ミシンの下糸残量検出装置を提供することである(同三頁一三行ないし五頁三行)。
2 構成
本願考案は、前項の技術的課題(目的)を達成するために、その要旨(実用新案登録請求の範囲記載)とする構成を採用した(昭和六二年七月一三日付手続補正書一〇頁初行ないし一二頁四行)。
3 作用効果
本願考案は、前項の構成を採用したことにより、
(1) アルミニウム箔である光学的反射片8をプーリ3のハウジング18側における表面に固着し、光学的検出素子10をハウジング18のプーリ3に臨む表面に固着し、これによつてプーリ3の回転数をカウンタ11によつて計数することができるようになり、キー入力手段12は脚部16の手前の表面に設けられ、表示器14は水平部17の前記一方端部17aの手前の表面に設けられているので、既存の本縫ミシンに関連して広範囲に実施することができるという優れた効果が達成される。
したがつて、機体1及びハウジング18内を分解して加工する必要がない。そのため家庭内の不慣れな人々にとつても、本願考案の実施が容易であり、本願考案は広範囲に実施することができるものである。
(2) 縫製に先立つてボビンには、下糸の材質と太さとに対応した量を巻回し、この縫製作業当初のボビンに巻かれた下糸の残量に対応した量を一〇〇とし、下糸が消費されてしまつたときを零として、下糸残量を表示器によつて、一〇〇分率に換算した値で表示する。したがつて、既に縫製を行つた量と、その後の縫製可能な量とを感覚的に知ることができる。そのため、縫製作業が能率的に行われ、縫製作業の途中で下糸が消費され尽してしまうという問題を可及的確実に避けることができる。
(3) しかも、本願考案ではモータ15を停止すべき予め定めた零でない下糸残量になつたとき、モータ15を処理回路13によつて停止させるようにしたので、このモータ15が停止している状態では、下糸はわずかに残存している。そのため縫製作業をモータ15の停止時に直ちに終了してもよいし、あるいはさらに縫製作業を続行してもよく、その後、下糸が巻回されているボビンと交換することができ、あるいはまた下糸が零又は零に近い値となつているボビンを取り外して、新たに下糸を巻回し直すことが可能になる。
したがつて、縫製される被加工物が不所望な位置で縫製を停止しなければならないという不都合がなくなり、縫製品質を向上することができる
(4) キー入力手段12は、脚部16の手前の表面に設けられており、この脚部16には、水平部17の一端部17aが連なり、この一端部17aから外側方に露出してはずみ車であるプーリ3が配置され、プーリ3には前述のように光学的反射片8が固着され、プーリ3に臨むハウジング18の表面には、光学的検出素子10が固着され、キー入力手段12の近傍には、表示器14が設けられているので、本縫ミシンにおいて比較的短い距離で配縁などを行うことができ、またメンテナンスが容易である。このことは特に既存の本縫ミシンにおいて本願考案を実施する際において、重要なことである。
(5) 表示器14はキー入力手段12の近傍で、かつ、そのキー入力手段12よりも上方に設けられているので、キー入力手段12を操作しているとき、キー入力手段12を見ていた目を僅かに動かすだけで、表示器14の表示内容を見ることができ、操作入力作業が容易であるという効果がある。したがつて、キー入力手段12の操作時に、そのキー入力手段12を操作している手によつて表示器14が隠れてしまうことはなく、表示器14の表示内容を常に見ることができる。
(6) キー入力手段12は、ハウジング18を構成する脚部16の手前の表面に設けられており、したがつて機体1の比較的近傍である。そのため機体1上で被加工物を操作している手を大きく動かすことなく、キー入力手段12の操作を行うことができる。これによつて操作性が向上される。
(7) キー入力手段12は、前述のように脚部16の手前表面に設けられ、一方、針棒4はハウジング18の水平部17の他端部17bに設けられており、したがつて、縫製作業はこの他端部17b側で行われることになる。そのため縫製作業中にキー入力手段12に不用意に作業者の手が接触して誤つた情報が入力されてしまうという問題がなく、縫製作業中にキー入力手段12が邪魔になるということがない。したがつて円滑な縫製作業を続行することができる。
(8) キー入力手段12からは、下糸の材質と下糸の太さとを入力すればよく、その他の操作は必要ではないので、操作が極めて簡単である。したがつて、特に家庭内の不慣れな人々でも、正確に操作をすることができる。
(9) 光学的反射片8は、単一個のアルミニウム箔であり、この光学的反射片8がプーリ3のハウジング18側における表面に固着されるので、既存のミシンに関連して前述のように容易に本願考案を実施することができるのはもちろん、このようなアルミニウム箔は、一般の家庭内で比較的容易に入手可能であり、好都合である。このことは本願考案のように家庭内などにおいて、広く実施する必要がある本縫いミシンにおいて、重要なことである(昭和六二年七月一三日手続補正書五頁二行ないし九頁一八行)。
二 本願考案の構成要素の全体的位置関係について
原告は、審決が認定した相違点に関し、本願考案が、従来の下糸残量検出装置が既存の本縫ミシンについて家庭内の不慣れな人が改造して実施することが困難であるとの知見に基づき、家庭内の不慣れな人が容易に実施することができるような本縫ミシンの下糸残量検出装置を提供することを技術的課題(目的)とし、その技術的課題(目的)を達成するため、既存の本縫ミシンを分解して組み込む等の必要をなくし、マイコンを利用し、本縫ミシンの表面に設けられ、短い配線距離で容易に取付けができるように構成要素の位置関係について工夫をし、これらを結合して本願考案の要旨とする構成を得たものであつて、従来の下糸残量検出装置では奏することのない格別の作用効果を奏するとして、審決が相違点の判断においてこの点を考慮に入れなかつたことの誤りを主張している。
前記一認定のとおり、本願考案の技術的課題(目的)の主要な点は、既存の本縫ミシンに容易に実施することができるように、下糸残量検出装置について、それを構成する部品をミシンを分解することなく、ミシンに取り付けることができるようにする点にある。そして、本願考案のその技術的課題(目的)を達成するため、審決認定の相違点<2>ないし<4>に係る構成、すなわち、光学的反射片をプーリに、その光学的検出素子をハウジンダのプーリに面した表面にそれぞれ固着し、また、キー入力手段、表示器も機枠の表面に設ける構成を採用したものである。
これに対して、被告は、本願明細書の「家庭内の不慣れな人々でも容易に実施することができる」との記載を捉え、本願考案を広く既存のミシンに実施することは当業者でも不可能に近いものであり、例え、特定の構造と機能を有する公知のミシンであつても、家庭内の不慣れな人々が実施することは不可能であるとして、本願考案の右の点に関する技術的課題は、家庭内の不慣れな人々でも簡単に使用できる操作性の良い下糸残量検出装置を組み込んだ本縫ミシンを提供するという趣旨である旨主張する。
もちろん、一般のミシンの利用者が自ら本願考案の構成要素を製作して既存のミシンに取り付けるなどということが不可能であることはいうまでもないが、本願考案の技術的課題(目的)はそのようなところにあるのではなく、一般の利用者であつても、ミシンを分解することなく容易に取り付けができるような下糸残量検出装置を提供することにある。この点に関する本願明細書の記載は明確であつて、被告の主張するような単に操作性のよい(これはミシンに取り付けられた後の問題である。)下糸残量検出装置を提供するというような抽象的、一般的な趣旨のものとは到底解することはできない。
しかし、既存のミシンを分解することなく容易に取り付けられる下糸残量検出装置を提供するという技術的課題(目的)は、本願考案の創意にかかる新規なものではなく、公知のものである。
一般に、特定の機能を有する装置ないし部品を、本体装置とは別個独立に構成して汎用性を持たせ、それを本体装置に簡単に取り付け、使用できるようにすることは周知の事項である。
そして、ミシンに関しても、成立に争いのない甲第七号証によれば、第三引用例には審決認定の下糸残量報知装置が記載されているが、更にその装置について、「本発明は、(略)その目的とするところは、ボビン内の糸の終端より約一ないし二メートルの時点にて書報を発し、一連の縫目の途中で下糸が無くなることによる不良加工を防止し得られるばかりではなく、既存のいずれのミシンにも何等の手数を加えることなく直ちに実施し得るミシンにおける縫糸消費量計測報知機を得るにある。」(一頁右下欄四行ないし一四行)と記載され、また、実施例の説明として、「尚本発明の計測報知機はフレーム1'の底面に接着シート14を設けているから紙片15を剥がして既設のミシンに容易に止着し得られる特徴がある。」(三頁左上欄一四行ないし一六行)記載され、ミシンの機枠の正面に報知機が止着されている図面(別紙図面二参照)が示されていることが認められるのである。
このことからすると、本願考案の前記の技術的課題(目的)は公知のものであつて、何ら新規で格別のものということはできないものである。
また、原告が工夫したと主張するその構成要素の位置関係についても、何ら格別のものではなく、何らの考案力も認めることができない。
まず、本願考案がアルミニウム箔の光学的反射片をプーリのハウジング側における表面に固着し、ハウジングのプーリに臨む表面に光学的検出素子を設ける点が周知又は公知の技術事項であることは後記四で認定するとおりである。
また、本願考案が脚部の手前の表面にキー入力手段を配設し、キー入力手段の近傍でかつその上方の水平部の表面に表示器を配設するとして点については、成立に争いのない乙第四号証(昭和五四年実用新案出願公開第一五四一五五号公報)、第五号証(昭和五七年実用新案出願公開第九九六七八号公報)及び第六号証(「電子技術」一九七九年七月号)によれば、本件出願当時、電子ミシンにおいて、模様の選択等の入力、表示装置がミシンの機枠前面に配設されることが周知のことであつたと認められるのであり、また、ミシンの形状、構造に照らせば、作業者がミシンにより縫製作業をするに当たつて入力操作し、又はその表示を確認する装置を配設する箇所は、自ずから機枠前面(水平部、脚部)に限定されてくるものと認められるものであり、機枠前面の中で具体的な配設箇所につき多少の工夫の余地はあつても、それは当業者が適宜選択できる設計事項というべきものであり、それによつて奏される作用効果も格別のものということはできないものである。したがつて、本願考案のキー入力手段及び表示器の配設箇所についても何ら考案力を認めることができない。
そして、以上のことからすると、各構成要素の全体の配設箇所の組合せ自体も何ら格別のものではない。
また、各構成要素をミシンのプーリや機枠の表面に配設することとすれば、既存の本縫ミシンを分解することなく、取り付けることができることは当然のことであり、それによる作用効果も、格別のものということはできない。
原告は、審決が本願考案が光学的反射片、光学的検出素子、キー入力手段及び表示器の四つの構成要素の配設箇所を組合せることによつて奏する格別の作用効果を考慮することなく、それぞれの配設箇所について、当業者がきわめて容易に実施することができる旨判断したことの誤りを主張しているが、以上のことからすると、右の主張は何ら理由がないものである。
三 取消事由<1>-相違点<1>に対する判断の誤りについて
原告は、審決の相違点<1>に対する判断について、第二引用例は、送り歯に水平運動を与える水平送り軸の揺動運動の一方向のみの運動により間欠回転機構を作動させるという複雑な構成で主軸の回転数を検知するものであり、本願考案とは技術的課題(目的)の異なる構成に係るものであつて、当業者がこれから第一引用例記載の発明におけるボビンの下糸残量を検知するための検出対象を主軸の回転数に代え、本願考案の構成を得ることを想到することはきわめて容易ではない旨主張する。
しかし、審決は、第二引用例記載の発明における送り歯に水平送り軸の揺動運動の一方向のみの運動により間欠回転機構を作動させるという構成そのものを第一引用例記載の発明の下糸残量検出装置に用いることを想到することが容易であるといつているのではなく、第二引用例記載の発明の前記構成から、消費した下糸の量(これから下糸残量も導かれる。)を検知するために主軸の回転数を計数することが開示されており、ボビンの回転数を検出することと主軸の回転数を検出することで目的及び効果に格別の差異は生じないので、当業者は第一引用例記載の発明の下糸残量検出装置において、ボビンの回転数を検出することに代え主軸の回転数を検出するようにすることは容易に想到することができる旨判断しているにすぎないものである。そして、この判断に誤りはなく、原告の主張は、審決の理由を正解しないものである。
また、原告は、第二引用例は、水平送り軸の揺動運動回数を機械的な連動手段でカウンタに表示するものであり、本願考案のようにマイコン利用のもとに主軸の回転数を表示するものとは表示手段を異にし、この点からも第二引用例記載の発明は本願考案とは技術的課題、作用効果を異にするとして、審決の前記判断の誤りを主張する。
しかし、本願考案がマイコンの利用を構成要件としていると理解できるか否かはともかくとして、主軸の回転数あるいは下糸残量の表示手段が相違することは、下糸残量を検知するのに主軸の回転数を利用することを想到することが容易か否かの判断に全く関係のないことであり、主張自体矢当であるというべきである。
以上のとおりであり、相違点<1>の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
四 取消事由<2>-相違点<2>に対する判断の誤り
原告は、第一周知例及び第二周知例にはミシン主軸の回転数を検出する構成は開示されていないとして、本願考案が主軸の回転数検出に光電検出装置を採用したことに何らの考案力を認めることができないとの審決の判断の誤りを主張する。
各周知例記載の発明はミシン針の特定位置を検出するためのものであつて、ミシン主軸の回転数を検出する構成が記載されていないことは被告も争わない(被告は、各周知例は、位置検出装置において光電検出装置を配設したものが周知であることの例として掲げたものである旨主張する。)。
しかし、ミシンの主軸の回転数の検出といい、あるいはミシン針の位置の検出といい、その基本的な原理、構成が異なるものではない。
例えば、成立に争いのない甲第八号証によれば、第一周知例記載の発明は、名称を「ミシン主軸回転位置検出装置」とする発明であるが、発明の詳細な説明には、「ミシンの針の上下位置検出を行う為には、ミシン針を上下駆動するミシン主軸の回転位量を検出する方法が一般的である」(一頁右下欄九行ないし一二行)と記載されていることが認められるところ、光学的に主軸の回転位置を検出するのも、その主軸の位置が三六〇度移転した回数、すなわち、主軸が回転した数を検出することも原理的に異なるものではないことは、当業者にとつて自明のことである。
そして、また、成立に争いのない乙第三号証によれば、昭和四一年特許出願公告第七九八三号公報は、名称を「ミシンの止め縫装置」とする発明に係るものであるが、発明の詳細な説明に、「22は前記電磁石15を間歇的に作動せしめる電気信号発生装置で、前記主軸2と同期して回転すべくタイミングベルト23を介して回転せしめられる不透明回転円板24と、その円板の前紀針3が加工布の上方に位置する間の範囲に相当する部分に設けられた一個の透孔25と、その円板24の一側に配置され、前記透孔25に相対し得る光源26と、またその円板24の他側に配置され、前記透孔25を介して通光する前記光源26により断続的に作動されて間隔的に電気信号を発生する光電素子27とにより構成されている。」(二欄下から一二行ないし末行)と記載されており、光電検出装置を使つて主軸の回転を検出する装置が開示されていることが認められる。
これらのことからすると、光電検出装置によつてミシンの主軸の回転数を検出することは従来から周知のことであり、本願考案が主軸の回転数検出に光電検出装置を採用したことに何らの考案力を認めることができないとの審決の判断に誤りはない。
また、原告は、アルミニウム箔をプーリのハウジング側の表面に配設するようにしたことの構成の考案力を主張する。
しかし、成立に争いのない乙第一二号証によれば、昭和五二年特許出願公開第一三二九四九号公報は、名称を「ミシンに於ける自動止め縫い装置」とする発明に係るものであるが、実施例として第4図(別紙図面三参照)が示され、発明の詳細な説明に、「44は回転主軸4と連結して回転するハズミ車、45はハズミ車の回転を検知する回転数検知器であつて、例えばフオトスイツチを用いれば黒色塗装してあるハズミ車の円周面の一部に白い紙46を貼り付けるだけで充分である。」(三頁右下欄六行ないし一一行)と記載されていることが認められる。
これによれば、ミシンのプーリの表面に被検出体を取り付けること、その被検出体としては複雑の構造のものではなく、白い紙のような容易に入手することができるものがあることは公知のものであると認めることができる。
同公報記載の発明においては被検出体をプーリのハウジング側の表面に配設することは記載されていないが、検出素子を機枠に設けること自体周知のことであるので(このことは、成立に争いのない乙第一〇号証及び第一一号証により認めることができる。)、同公報記載の発明においても、回転検出器45を機枠に直接に設ければ、被検出体もプーリの磯枠に面した表面に設けることになることは当然のことである。
このように、本願考察において、被検出体たるアルミニワム箔をプーリの機枠に面した表面に配設したことは従来周知又は公知の技術事項から当業者がきわめて容易に想到することができたものである。
そして、アルミニウム箔をプーリの機枠に面した表面に記設すれば、作業者がプーリに手を接触させた時、アルミニウム箔に接触して剥離することがないということは当然の事理であつて、何ら格別のものではない。
したがつて、審決がプーリに反射アルミ箔を固着することは、当業者にとつてはきわめて容易に実施し得る設計上の事項であり、また、そのようにしたことによつて格別の作用効果がもたらされたということもできないとして、その点の考案力を否定したことに誤りはない。
五 取消事由<3>-相違点<3>に対する判断の誤りについて
原告は、審決が本願考案か下糸の材質を入力した点に格別の効果はないとして、これを当業者が必要に応じてきわめて容易に推考し得るものであると判断したことの誤りをいう。
前掲甲第二号証及び第四号証によれば、本願明細書には、「通常、綿糸はボビン一杯に巻かれるけれども、テトロン糸はボビンの八〇%程度だけ巻いて使われる。たとえばボビンが一般の本縫直線縫のミシンTA形式であるとき、紙糸六〇番ではX(注-ボビンに一杯の巻付けられる下糸の量)=五五ないし五七m程度、テトロン糸六〇番の場台X=五三ないし五四m程度である。プーリ3の回転数は、上記下糸量Xを消費するために綿糸のとき一七〇〇〇ないし二〇、〇〇〇回程度回転することができ、テトロン糸の場合には一八、〇〇〇ないし二〇、〇〇〇回程度回転することができる。したがつて下糸が消費されつくしてしまうまで、本縫ミシンの動作を停止しようとする塲合には、たこえば設定されるべき下糸残量Zは五〇〇ないし一、〇〇〇回転とし、これによつて綿糸のとき、たとえばプーリ3の回転数が一六、五〇〇回転程度になつたときに本縫ミシンの動作を停止すればよい。」(明細書八頁一一行ないし九頁六行)、「第3図(別紙図面一参照)を参照して、処理回路13に関連する動作を説明する。ステツプn1からステツブn2に移り、キー入力値の読込みを行う。キー入力手段12では、第1表(別表参照)に示されるように予め準備されている条件に対応した値がキー入力手段12によつて処理回路13に入力される。この第1表の値は、モータ15を停止して本縫ミシンの動作を停止すべき下糸残量Zである。かま6に装着されるボビンには、下糸が前述のように綿糸のときは一杯に巻かれ、テトロン糸のときには一杯のうちの約八〇%位巻かれる。これらの下糸の材質および下糸の太さによつてモータ15を停止すべき下糸残量が定まる。ステツプn3では、検出素子10によつて検出されるプーり3の回転数が読込まれる。ステツプn4ではこの回転数に対応した下糸残量の演算が行なわれる。ステツプn5では、表示器14によつて下糸残量の表示が行なわれる。ステツプn6では、この予め定めた下糸残量2に対応する回転数に達したか否かが検出され、そうであればステツプn7に移り、モーター15が停止される一(明細書一〇頁八行ないし一二頁二行、昭和六二年七月一三日付手続補正書四頁一四行ないし一六行)と記載されていることが認められる。
これによれば、本願考案においては、下糸がテトロン糸の場合、作業者がボビン一杯にではなく、約八〇%程度を巻き付けることを前提にして、その下糸が所定の残量になるまでのプーりの回転数を演算し、その回転数に達したときにモータを停止するというものである(テトロン糸以外の糸もこれと同様に処理される。)。
すなわち、糸の材質を入力するというのは、本願考案においては、糸の材質に応じて作業者が糸の巻付け量を加減するので、それに応じて所定の下糸残量になるまでに検出すべきプーりの回転数を補正するというにすきないものである。
ボビンへの下糸の巻付け量が異なれば所定の下糸残量に達するまでの下糸の消費量は異なり、したがつてまた、それまでのプーりの回転数は異なつてくるのであるから、本願考案の右技術は当たり前のものであり、格別の考案と評価できるようなものではない。
そして、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例の特許請求の範囲には「本縫ミシンに於ける下糸ボビンの回転部に磁気信号発生体を設けると共に、固定部に磁気センサを設置して下糸ボビンの回転数を検知なし、下糸ホビンに下糸を巻き付ける際に、任意量若しくは所定量まで卷きつけた下糸長さを前記下糸ボビンの回転数により計量して記憶させるレジスタを備え(略)を特徴とする本縫ミシンの下糸残量検出装置」と記載されていることが認められる。
第一引用例記載の発明の下糸残量検出装置においては下糸の材質は考慮されないか、それは、ボビンに巻き付けた下糸の産をボビンの回転数により計量することによるものと認めることができる。
原告は、本願考案においては、糸の巻付け量を入力する必後はなく、操作性が格段に同上する旨主張するが、本願考案においても、糸の材質に応じて巻付け量を加減するという操作(その操作の正確性を確保する手段は本願明細書には開示されていない。)が必要になるのであるから、操作性という面でみても第一引用例記載の発明のものと格段の効果の差異があるものではない。
したかつて、審決が本願考案が下糸の材質を入力した点に格別の効果はないとして、これを当業者が必要に応じてきわめて容易に推考し得るものであると判断したことに誤りはない。
六 取消事由<4>-相違点<4>に対する判断の誤りについて
原告は、審決が下糸残量を一〇〇分準で表示しても、段階前に表示する第一引用例記載の発明と比較して格別の作用効果が生じたということができないと判断したことの誤りを主張する。
前掲甲第五号証によれば、第一引用例には、下糸残量を四m、三m、二m、一m、〇mの五段階に表示する表示器が示されている第1図(別紙図面四参照)が示され、発明の詳細な説明として、「6は下糸残量を段階的に表す複数値の表示ランプを有した表示器装置(二頁左上欄一一行ないし一三行)一と記載されていることが認められる。
原告は、本願考案の一〇〇分率による表示によれば、本願明細書記載のとおり、既に縫製を行つた量と、その後の縫製可能な量とを直観的に知ることができ縫製作業の途中で下糸が消費され尽くしてしまうという問題を可及的に避けることができるという効果を奏する旨主張する。
しかし、縫製作業の途中で下糸が消費され尽くしてしまうことを防ぐという効果は第一引用例記載の残量を段階的に表示する方法でも奏するものであり、作業者は表示器を見ることにより感覚的に下糸の残量を知ることができるものであり、その点は両者において何ら差異はない。
そして、下糸残量検出装置において、下糸の残量を絶対量(長さ)の観点から段階的に表示するようにすることも、相対的消費量(残存量)の観点から割合的に表示するようにすることも、当業者が適宜に選択して用いることができる技術事項であるというべきである。
したがつて、審決が下糸残量を一〇〇分率で表示しても、段階的に表示する第一引用例記載の発明と比較して格別の作用効果が生じたということができないと判断したことに誤りはない。
七 取消事由<5>-相違点<5>に対す判断の誤りについて
原告は、第三引用例には下糸残量が所定の指定残量になつたときにミシンを停止させることは開示されていないとして、本願考案が下糸残量が所定の指定残量になつたとききにミシンを停止させるようにしたことは、第三引用例記載の技術事項から当業者がきわめて容易に実施し得ると判断したことの誤りをいう。
しかし、そもそも、第三引用例には「ミシン作業時に所定の下糸残量に達したときにミシンの回転を制御すなわち停止せしめたり警報を発したりするようにした下糸残量警報装置」が記載されているとの審決の認定は原告も認めて争わないところである。
そして、更に、前掲甲第七号証によれば、第三引用例の特許請求の範囲には、「指標が零点に達した時ミシン回転を制御せしめたり、警報を発したりする事が出来るようにしたミシンに於ける縫糸消費残量計測報知機」(一頁左下欄末行ないし右下欄二行)と記載されていることが認められるか、前記三認定の第三引用例記載の発明の技術的課題(目的)からすれば、発明の目的のミシンの回転を制御するということのなかにミシンを停止させることが含まれる(むしろ、それが主な意味である。)ことは当業者にとつて自明のことというべきである。
したかつて、審決が、第三引用例に下糸残量が所定の指定残量になつたときにミシンを停止させることは開示されているとして、本願考案が下糸残量が所定の指定残量になつたときにミシンを停止させるようにしたことは、第三引用例記載の技術事項から当業者がきわめて容易に実施し得ると判断したことに誤りはない。
八 以上のとおり、本願考案の進歩性を否定した審決の認定、判断には誤りはなく、その違法をいう原告の主張は理田がない。
第三 よつて、審決の違法を理由に審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田櫨 裁制官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)
別表
第1表
下糸の太さ(番)
50 60 …
下糸の材質 綿糸
テトロン糸
…
別紙図面一
<省略>
別紙図面二
<省略>
別紙図面三
<省略>
別紙図面四
<省略>